01


side オトウト


制服の上にコートを着て、淡い色のマフラーを首に巻いて、わざと手袋を机の上に置いた。

「よしっ」

準備をして自室から出ると今まさに玄関から出て行こうとした先輩を見つけた。

「いってきます」

「あっ、待って!オレも一緒に行く!!」

その後ろ姿をオレは慌てて追った。

外に出るとオレを待つようにゆっくりとした足取りで少し先を歩く先輩がいる。

オレの思い込みかも知れないけどそれがちょっと嬉しかったりする。

「待ってよ、オニイチャン!」

朝から緩みそうになる頬を冷たい風が撫でる。

オレは先輩の隣に並んで白い息を吐いた。

「へへっ///」

「変な顔になってるぞ」

チラッと向けられた視線にオレはいーの、と上機嫌に返した。

だってこうして先輩の隣を歩いていることが嬉しくて、何気に先輩はオレの歩幅に合わせて歩いてくれてるし。

これは絶対勘違いじゃない。

ちらほらと周りに、オレや先輩が身に付けているのと同じ学生服を着た生徒が増え、中学校と高校への別れ道が表れる。

「放課後、先に帰らないでよ!」

「はいはい、分かってる。ほら、早く行け」

クシャと髪を撫でられ、オレは先輩と別れた。

どうしても先輩と一緒に帰りたかったオレは連日HRをサボっていたがとうとう先日、先輩に怒られた。

あんまりサボってるようなら、俺はもう一緒に帰ってやらねぇぞ。と。

帰り道にそう言われた。

それは困る。オレがうーうー、悩んでいると先輩はそんなに悩むことか?とオレを不思議そうに見てきた。

「オレにとっては死活問題だよっ!!」

先輩とはいつだって一緒にいたいと思ってるのに、先輩は違うんだ。と、恨みがましく睨み上げれば先輩はふぃ、と視線を反らした。

その事にショックを受けたオレの耳にため息が聞こえた。

「まったく、…お前には負けたよ。放課後待っててやるからちゃんとHRに出てから迎えに来い」

「え!?いいのっ!待っててくれるの?」

「それとも迎えに来て欲しいのか?」

「それも嬉しいけどいい。オレがそっち行く!」

先輩が迎えに来てくれるのは物凄く嬉しいけど、先輩格好良いから皆に惚れられちゃう。それは絶対嫌だ。そんなの見たくないし。

「分かった。ちゃんと守れよ」

「うん」

それから先輩は言葉通り待っててくれる。

その姿を見る度に言いたくなる言葉がある。

…先輩大好き。









キーンコーンカーンコーン…


約束通り帰りのHRをちゃんと受けたオレは一番に教室を飛び出した。

待ってると分かっているけど、自然と歩く足が速くなる。

朝一人で通った道を通り、別れ道まで急ぐ。

そこで少し弾んだ息を整えて先輩の待つ高校への道へ足を踏み出した。

高校は中学より下校時間が早く、帰りのピークを過ぎたのかあまり高校生とは擦れ違わなかった。

そして、オレは正門の前で立ち止まり、先輩に着いたよvとメールを送った。

先輩は数分もしない内に校舎から出てきた。

「ぷっ、お前顔真っ赤。んな急いで来なくても帰ったりしねぇよ」

クシャクシャと髪を撫でられ、笑われる。

その笑った顔が格好良くてオレはますます顔を赤くした。

「……///」

「さ、帰るか。…って、あれ?お前手袋どうした?」

先輩はオレが手袋をしていないことに気付き、首を傾げた。

「…忘れた」

「仕方ねぇな、ほら」

そう言って先輩は自分がしていた手袋を外して差し出してきた。

オレは片方だけ受け取り手にはめる。

一度やってみたかったことがあるんだよね。

その為に手袋を置いてきたと言ってもいい。

不思議そうな顔をする先輩の右手に、手袋をしていない方の左手を重ね、そのまま先輩の羽織っているコートの中に突っ込んだ。

「へへっ///」

「お前っ…」

そう一度はやってみたかったんだよね、コレ。

やっぱ怒られるかな、と緩みきった顔で先輩を見上げれば先輩は眉を寄せ、何とも言えない表情をしていた。

「せ…オニイチャン?」

「………帰るぞ」

身構えていたオレに先輩は短くそう言い、グイッ、とコートの中に入れたままの腕を引いた。

「…怒ってる?」

黙々と足を進める先輩にオレは不安になってきた。

「怒ってない」

「嘘、怒ってるでしょ?オレが勝手なことしたから」

ジワッ、と涙が浮かんできた。

オレいつからこんな女々しくなったんだ?泣くな。

「そうじゃなくて、あ〜。お前、あんま恥ずかしいことすんな」

「え!?」

ピタリ、と立ち止まった先輩を見上げれば、微かに耳朶が赤く染まっていた。

もしかして嫌じゃなくて恥ずかしかっただけ…?

ジロジロ見んな、と言って額をデコピンされ地味に痛かったけど、そんなことより悲しい気持ちが一気に吹き飛び逆に上昇した。

先輩の照れてる顔初めて見たなぁ。

ちょっと可愛いかもv

それからオレはずっとにこにこ笑っていた。

「変な顔すんな」

隣を歩く先輩はそう言って、オレの髪をグシャグシャにしたけど、繋いだ手は家に着くまで離されることはなかった。

だからオレは明日も手袋は置いて行こうと密かに思った。





END


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